冬の夜道
 加納の医光寺の周辺は、むかし大きな杉林でさびしい所でした。近くに住む利助じいさんは、ある冬の寒い日に用事があって町へ 出かけてその帰り、まだ早いし、寒いからと思って酒屋に入り、一ぱい飲んでいるうちに真っ暗になってしまいました。 冬の夜道は一ぱいきげんで、鼻歌をうたいながら医光寺の近くまできました。
「何だか寒気がするな」
と思うと道ばたにほんのりと、白い大きな丸い物が見えるではないか、
「ハテ、最近雪が降ったわけでなし、雪だるまにしてはおかしい」
 近寄ってみるとコロコロと、ころがって畑の中に入ってゆく、なおも近寄ると更にころがって奥へ奥へと進む。 そのうちパッと消えてあたりはまた真っ暗やみ、利助さんは変だなあと思いながら間もなく自宅に着き、
冬の夜道 「婆さん、今帰ったよ」
「おそかったじゃないかね」
「うん、途中、変なことがあっておそくなったんだよ、それよりお前ほんとにうちの婆さんか」
と言いながらお婆さんの顔を、ギューッとつねりました。
「イテテェ、何するんだね、ほーれよくよく見てごらん」
ニューッと突き出した顔、それは毎日あきる程見ている、あぐらをかいたような大きな鼻の婆さんでした。
「うん、そうか」
「そうかじゃないよ、ああ痛かった。それより風呂がわいているから早く入んなよ」
「なに、風呂か、まさか肥えだめじゃねえだろうな」
狐にだまされて風呂に入ったと思ったら、野原の中の肥えだめだったという、弥次さん喜多さんの話を思い出したのです。
「じいさん、何かに化かされたんかね。もう相手にできないよ」
お婆さんはブツブツ言いながら夜なべの針仕事にかかりました。
風呂の中では利助さんが、
「しかし変だな、あれは何だったろう」
と、ひとり言を言っていました。
それからしばらくの間、利助さんは首をかしげては、
「それにしてもおかしい。あれは狐かな、それとも狸かな」
と、つぶやいている日がつづきました。