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通り抜けられぬ杉山
 その昔、川田谷には大きな杉山があちこちに見られました。昼なお暗い杉山の近くには民家もなく、寂しい所でした。
 ある日のこと、一人の旅人が山道を通り抜け隣村へと急いでおりました。しばらく行くと、道をふさぐように置かれた岩のように大きな石にぶつかりました。
「おっと、これはいけないなあ」
あわててそれを避けて歩こうとすると、また足元に大きな石があり、避けても避けても大きな石ころが連なるように転がっていて、前に歩けませんでした。
 真っ暗な杉の道をふさいだ石は、どこまで転がってその道をふさいでいるのか見当もつかず、旅人の不安は募るばかりでした。
 すっかり恐ろしくなった旅人は、もと来た道を一目散に駆け戻りました。
 村人にその話をすると、
通り抜けられぬ杉山 「あの杉山にはのお、昔から狸や狐が住んでいて昼間のうちは穴の中で眠りほうけてるが、 夜になると出てきて人間を化かすと昔から言われていてなあ、誰も夜は隣村へ行く人などおらん。余程の物好きもあの杉山だけは行かんなあ」
という返事でした。
あくる日、旅人の話を聞いた威勢のいい一人の若者が
「わしなら、そんな石ころに驚かんよ。きっと隣村まで杉山を通り抜けてみせる」
と勢いよく出かけました。
日の暮れるのを待って山に入った若者は、石ころぐらいに驚きませんでした。石ころでふさがれるとその道は避けて他の道に曲がり、 また石ころに出会うと手前で横道に折れて一晩中歩き通しましたが、その山を抜けることができませんでした。
 とうとう歩き疲れて家に帰って見ると、一番鶏が、
「コケコッコー」
と鳴きました。
若者は、村人たちを集めて
「どうしたら、隣村まで杉山が通り抜けられるだろうか」
と相談してみました。
昼だと難なく通れる道だというのに、どうしたものか夜に通れないとは不思議でならない村人たちは、みんなで山に入ってみることになりました。
日の暮れるのを待った村人たちは、それぞれに棒や竹を持って勇んで山に入りました。しばらく行くと、やはり話のような大きな石に突き当たりました。
 一人で山に入った旅人や若者は、恐る恐るその石を避けて歩いたのですが、大勢の村人は手にした棒や竹で力いっぱいその石を叩きました。
 すると、どうでしょう。道をふさいだ大きな石ころは何処へともなく消えてしまいました。次の石も、次の石も叩くとすーっと消えてしまうのです。
「生き物だべ。どうも叩くと頭を縮めてしまうような気がするなあ」
「石が口をきいてたまるかね」
村人たちは口々に言いながら石ころを叩き、とうとう隣村まで行ってしまいました。
 あくる日、杉山へ行ってみると、杉山立の根本ややぶの陰に大きな狸が死んでいるのを見つけました。
「やっぱり狸だったのか」
と、村人たちはいくつもの狸を担いで帰りました。
それからというものは、夜も昼と同様、自由に杉山の道を歩いて隣村に行けるようになったということです。

 村人たちは、たいそう喜んで皆でお祝いをしましたがその杉山にはその後、立派な泉福寺という寺が建てられました。