沼の竜神
 むかしむかしのことです。加納に大きな沼がありました。この沼の深い所に大きな竜が住んでいて、時どき雲を呼び雨を降らせて、田んぼを暴れまわっていました。
 人びとは、
「竜神さまが出た」
と言って、この日は家に閉じこもっていました。
 ところが隣村に弓の名人と言われる若者がいて、
「よし、その竜を退治してやろう」
ということになりました。
 ある夏の日、朝から日照りが強く夕立がきそうな日でした。若者は物陰にかくれていました。やがて夕方、東の空に入道雲が見えて、ポツリポツリと雨が降ってきました。 すると沼の中程の水がざわざわとして竜の頭が見えました。若者はギューと弓を引きしぼり、竜の目をねらってエーッと矢を放ちました。
沼の竜神  名人といわれる人の矢は、竜の目にプツリと命中しました。
 するとそのとき、大きな風が吹きはじめ、大粒の雨がはげしく降り出し、沼のはずれに起こったたつまきがみるみるうちに大きくなり、雷鳴と共に目もくらむような稲妻が光り、人びとは耳をふさぎ地に 伏していました。
 やがてしばらくの後、風も静まり雨もやんで元の静けさにもどりました。それからは沼の水もだんだん少なくなり、竜の姿を見ることもなくなりました。
 あのはげしかったたつまきによって、竜神は水柱の中に入って天に昇ってしまったのだろうと、村人たちは話していました。
 だが、それからの若者の家には、不幸な事がつづいたそうです。