その頃の旅人は、朝の四時頃に出発するので早くから人通りも多く、夕方は旅の人を呼び込む声や、泊まった人たちが酒を飲んだり、遊んだり、この人たちを世話する者の声などで、とてもにぎやかな町でした。
その頃、きれいな若い男の人が夜の町に姿を見せはじめました。この人は、背のすらりとした、気品のあるかおたちで、静かに酒を飲み、美しい声でうたい、時には踊り、 楽しく一ときを過ごし、静かに帰ってゆくその姿は、若い女たちのあこがれのまとでした。
しかし、どこの人かわからず、ある夜、そっと後をつけて行くと、大雲寺の門の中に入るので、若い僧侶が遊んで歩くという噂がたったため、住職もそのままにしておけず、 何人もいる若い修行中の僧を集めて聞いたが、誰もそんなことは知らないと言う。困った住職はある夜、気付かれないように、そっと見ていると、夜半に近い頃、若い男が寺の庭に入ってきて、 いつの間にか、ふっと姿が消えてしまいました。

それからは夜の町を遊び歩くあの若衆の姿は、見えなくなったそうです。